2016年のペルセウス座流星群では、新しく形成されたダスト・トレイルとの接近が予想されています。この情報についてまとめました。
ダスト・トレイルとは、流星物質(流星の元となる砂のような粒)のチューブ状の構造です。ペルセウス座流星群は、その母彗星であるスイフト・タットル彗星(109P/Swift-Tuttle)から放出されたダストが形成するダスト・トレイルと地球が遭遇して出現します。通常の極大は、古くから形成されてきたダスト・トレイルが大量に重なった大きなダストのチューブの中で、最も濃い部分と地球が遭遇するときに起こります。
一方で、比較的新しく放出された流星物質によって作られた濃いダスト・トレイルが地球と接近し、短時間に流星数が増加する副次的な極大が観測されることがあります。
今年は、以下のような複数のダスト・トレイルとの接近が予測されます(データは、佐藤の計算による値です)。このうち1862年放出トレイルが最も出現数の増加に関与すると考えられます。
ただし、残念ながら全てのダスト・トレイルとの接近時刻は、日本で観測できない(昼間の)時間帯にあたっています。
表 ペルセウス座流星群の各ダスト・トレイルのデータ(2016年)
放出年 | 予想極大 (日本時) | 太陽黄経 (2000.0) | Δr (※1 (au) | 放出速度 | fM値 (※2 | 備考 |
---|---|---|---|---|---|---|
1862 | 08/12 07:44 | 139.444 | -0.0014 | +42.77 | 1.0 | 最も大きいピーク |
1479 | 08/12 08:19 | 139.467 | +0.000041 | +5.41 | 0.018 | 若干関与か |
1737 | 08/12 08:52 | 139.490 | +0.0075 | +25.07 | 0.26 | 遠い |
1079 | 08/12 13:45 | 139.685 | +0.0016 | +2.26 | 0.036 | やや増加 |
1079 | 08/12 13:48 | 139.687 | +0.0015 | +2.27 | 0.048 | やや増加 |
※1 Δrは、ダスト・トレイルの降交点における地球軌道との距離
※2 fM値は、ダスト・トレイルの引き延ばされ具合を示す値
図1 ペルセウス座流星群のダスト・トレイルの分布(2016年)
今年接近するダスト・トレイルの中では、最も影響が考えられるダスト・トレイルです。この一回帰トレイルは、通常年は地球軌道よりも0.01auほど外側に位置しますが、木星や土星の摂動による影響を受けて、時々地球軌道付近に移動してきます。今年は木星の摂動によって接近してきたもので、2004年以来の接近となります(この他に土星の摂動による接近が2009年に起きています)。2004年のときには、ZHR=が180程度に達するようなピークが観測されました。このときのダストの放出速度は23m/sでしたが、今年の場合は43m/sとその速度がかなり大きく(速く)なっているので、ダストの放出規模が縮小され出現規模も小さくなると予想されます。ざっくりとZHR=100程度ではないかと考えています。
ただし、予報時刻は7時44分(日本時、以下同じ)ですので、日本では昼間にあたり観測できません。放射点自体は空の高い位置にありますので、国内では電波による観測が期待されます。
今年、地球軌道に最も接近するダスト・トレイルです。一方で、引き延ばされ具合を示すfM値は約0.02と小さく、一回帰トレイルの2%程度の濃さしかありません。ただし、放出速度が5m/sと小さい(遅い)ので、fM値で比較するよりは出現規模は大きくなり、また明るい流星が多い可能性も高いと考えられます。
総合して考えると、ZHRで10〜30程度増加させる寄与があるかもしれません。ただし、一回帰(1862年)トレイルと極大時刻が近いため、そのピークを明確に捉えるのは難しそうです。
1862年トレイルと同様に日本の昼間の時間帯のため、電波による観測が期待されます。
fM値が0.26と比較的大き目のため(一回帰と4分の1程度)、本来であればある程度の寄与も考えられるのですが、接近距離(Δr)が0.007auと遠目です。これまでのペルセウス座流星群では、0.003au程度まで接近する場合に出現数の増加が見られますので、今回は明確な極大は観測されないのではないかと思われます。
一回帰トレイルと同じ程度の0.0015auまで接近するダスト・トレイルで、計算上は2本のダスト・トレイルが重なって接近しています。放出速度が2m/sと小さいため、ダストの放出規模が大きく、何らかの出現増加の可能性は高いと考えられます。fM値も2本を合わせると、0.08を越えて10%近くとなります。ZHRでは、20〜50程度増加する可能性もあります。
ただしダストの分布は広がっているため、ピークはやや長めかもしれません。
残念ながらこのピークも、13時40分台で日本の昼間の時間帯となり、観測できません。また放射点の位置も低いため、電波での観測条件も悪いです。
ダスト・トレイルとの接近による出現数の増加については、まだ経験値が少ないため正確な予報は難しい状況です。
出現数の増加傾向と、ピークの継続時間をざっくりと仮定したのが下のグラフです。参考にしてください。
図2 大まかな出現予測グラフ
ZHRは、理想的な条件で観測した場合の1時間あたりの流星数です。実際に観測できる流星数は、良い空で観測した場合でも、一般的にこの値の半分くらいの数となります。
1862年トレイルは、1479年トレイルと重なって、短くて鋭いピークを作ります。
一旦流星数が減少したあと、1079年トレイルによるやや継続時間の長めのピークを作ります。この頃は通常極大に向けて流星数がかなり増加している時間帯ですので、トレイルによる増加がわずかであっても、流星群自体はかなり活発化することになりそうです。
その後、通常の極大を迎えます。1079年のトレイルが重なると、見かけ上なだらかなピークとなって観測されるかもしれません。
また、各トレイルによる出現増加の時間帯が、日本で観測できる時間帯とはずれている様子もわかります。
佐藤 幹哉(かわさき宙と緑の科学館/日本流星研究会/FAS府中天文同好会)
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