はやぶさ2の小惑星リュウグウ探査では、インパクタ(SCI:Small Carry-on Impactor)をリュウグウ本体に衝突させる 「インパクタ衝突ミッション」 が行われました。この際に生じたイジェクタ(噴出物)について検討したところ、2033年12月に地球に到達し、流星の出現する可能性があることが判明しました。
(この内容は、2019年8月23〜24日に名古屋市で開催されました「流星会議2019」にて発表したものです。)
はやぶさ2の小惑星リュウグウ探査の中で最も野心的なミッションとして、インパクタ (SCI:Small Carry-on Impactor)をリュウグウ本体に衝突させる 「インパクタ衝突ミッション」 が挙げられます。2019年4月5日に、計画通りに実施されたこのミッションでは、リュウグウ本体からかなりのイジェクタ(噴出物)が確認されました。そこで、このイジェクタが地球に接近し、流星となる可能性を探りました。
図1のように、地球軌道と火星軌道の間を行き交うような楕円軌道で公転しています。そして、降交点において地球と接近します。流星が出現する場合は、この降交点付近です。
衝突ミッションは、純銅の銅板(ライナ)を爆薬にて秒速2kmに加速し、およそ300m上空からリュウグウに衝突させるものでした。
2019年4月5日11時36分(探査機時刻≒TDB)に作動されており、図2のようにエジェクタ(噴出物)が確認され、ミッションは成功しています。
※なお概算として、エジェクタは、最大秒速15〜30m ほどで舞い上がっているように見えています。
リュウグウから噴出したチリ(エジェクタ)について摂動計算を行い、その後の地球到達の条件を求めました。
この際のチリは、リュウグウ本体から大きく離れるには時間がかかります。一方、リュウグウと地球の接近は、2020年12月と2033年の12月の2回が知られていますので、この2回について検討することにしました。
また、粗計算により、放出速度が相当大きくないと2020年12月に地球に達しないことが判明しましたので、今回は、2033年12月に地球到達する条件を詳しく求めることにしました。
チリの放出方向は、インパクタが衝突したはやぶさ2のホームポジション方向(リュウグウから見た地球の方向)を基準にしました。なお、地球接近のタイミングを調整するために、リュウグウが運動(公転)する前後方向へ微修正して、地球に到達する条件を求めました。
また、チリは、コーン状(三角錐状)に放出しているようにみえるため、この部分について図3のように定めて、基準方向と同様に地球に到達する条件を求めました。
地球に到達するチリ(イジェクタ)の状況を表1にまとめました。
基準方向(ホームポジション方向、0゜)から32゜までは、放出速度が30m/secよりも小さく、実際の放出物が存在する可能性が高いと考えられます。
これらのチリが地球と衝突する時刻は、2033年12月3日、15時台〜22時台であり、基準角度が小さく、放出速度の小さいチリの一部は、日本でも観測しやすい時刻に衝突することが判明しました。
なお放射点は、いずれの条件でもほぼ変わらず、カシオペヤ座に位置します。日本では概ね高い空に見られ、好条件で観測することができます。
Vg (地球突入による引力前の速度)は4.6 km/s と大変小さく、天頂引力等の効果が大きくなることから、放射点は非常に広がることが予想されます。
通常の流星群は、彗星が母天体であり、比較的継続的に流星となるチリが母天体から放出されています。これに対して、今回のケースでは、ワンショット(継続しない)の放出ですので、通常の流星群よりもチリの噴出規模が小さいことが予想されます。
このため、地球到達時においてのチリの空間密度は小さく、通常の流星群のように数多く流れるものではないと推測されます。
観測としては、なるべく観測地点を多くするなど、数少ない流星の検出を目指すことが必要となりそうです。
今回のミッションに由来するリュウグウのチリは、2033年12月に地球に到達する可能性が高い結果が得られました。
流星出現の規模は小さいことが予想されますが、色々な可能性を念頭に、観測に臨んでいただければと思います。
なお、放出速度が大きいことが判明している2020年に地球に到達するチリについても、今後さらなる検討を予定しています。
佐藤 幹哉(日本流星研究会)
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