当方(佐藤幹哉)らの研究により、ほうおう座流星群のダスト・トレイルが12月1〜2日(世界時2日0時、日本時2日9時)前後に地球と接近し、この流星群の出現の可能性が見出されています。日本ではこの極大時間帯が昼間に当たり、観測条件は大変悪い状況です。そこで当方らは比較的観測条件の良いカナリア諸島のラ・パルマ島に遠征し、この観測に臨むことにしました。
当方らのグループでは、12月1〜2日(世界時)にラ・パルマ島で観測に臨み、数は少ないもののほうおう座流星群の出現を確認しました。
速報値として0時45分〜1時15分の30分間に、6個(1時間あたり12個)の出現を眼視観測にて記録しました。
ほうおう座流星群は、1956年12月5日に初めて観測された流星群です。このとき、日本初の南極観測隊を載せた南極観測船「宗谷」が、インド洋上でこの流星群の流星雨に遭遇しました。隊員の一人、中村純二さんがこれを観測しており、極大は12月5日16時30分頃、1時間当たりおよそ300個という流星雨が報告されています(古畑・中村 1957)。
なお、まとまった出現はこの年限りで、その後もほとんど観測されていません。
この流星群の母天体は、公転周期約5年のブランペイン彗星(289P/Blanpain)です。1819年の発見年と、その翌年まで彗星は観測されましたが、その後長い間見失われていました。その後、2003年に発見された「2003WY25」という小惑星が、2005年になってブランペイン彗星が再来したものだと判明しました。その結果、長期間の軌道が確定し、ダスト・トレイルのシミュレーション計算が可能となりました。
当方らは、1956年の大出現が、母天体から18世紀中頃〜19世紀初頭に放出されたダストが形成するダスト・トレイルによってもたらされたものであることを示し、論文にて発表しております(渡部・佐藤・春日2005)。
1956年の検証と同様のシミュレーションにより、2014年に出現する可能性が高いことが示されました(渡部・佐藤・春日2005、および佐藤・渡部2010)。
2014年に地球と接近するおもなダスト・トレイルの状況です。20世紀初頭に母天体から放出されたダストが形成するダスト・トレイルと、12月2日0時(世界時、9時日本時)前後に地球が接近します。日本では昼間にあたるため、極大付近の観測条件が大変悪い状況です。
なお、流星の速度は、流星群の中では非常に遅く約10km/秒です。速度が遅いことで知られる10月りゅう座流星群(ジャコビニ群)のさらに約半分の速度です。
表1 2014年のダスト・トレイルのデータ
トレイル 放出年 | 日付 (世界時) | 時刻 (日本時) | 太陽黄経 (2000.0) | 距離 (au) | 放出 速度 (m/s) | fM値 | 放射点 | 地心 速度 (km/s) | |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
赤経 | 赤緯 | ||||||||
1914 | 12月1.96日 | 12月2日 8時03分 | 249.472゜ | -0.00094 | -1.24 | 0.016 | 7.89゜ (0h31m35s) | -27.25゜ | 9.79 |
1919 | 12月1.97日 | 12月2日 8時15分 | 249.480゜ | -0.00070 | -1.98 | 0.026 | 7.91゜ (0h31m38s) | -27.27゜ | 9.78 |
1925 | 12月2.00日 | 12月2日 8時59分 | 249.511゜ | -0.00020 | -2.33 | 0.030 | 7.94゜ (0h31m45s) | -27.36゜ | 9.77 |
1909 | 12月2.02日 | 12月2日 9時27分 | 249.531゜ | -0.000037 | -1.74 | 0.022 | 7.98゜ (0h31m55s) | -27.49゜ | 9.78 |
1930 | 12月2.05日 | 12月2日 9時07分 | 249.559゜ | +0.00064 | -2.94 | 0.036 | 7.99゜ (0h31m58s) | -27.52゜ | 9.76 |
※佐藤による最新の計算結果より
2014年のダスト・トレイルの状況からは、1956年の半分程度の出現数が最大として推測されます。1956年は最大出現数が1時間に300個(HR=300)と報告されています(古畑・中村1957)。この値をZHRに換算すると(佐藤の推測)ZHR=400程度であったと考えられます。ここから類推すると、2014年の最大は、およそZHR=200程度となる可能性があります。
ただし、2014年に接近するダスト・トレイルは、母天体から1909〜1930年頃に母天体から放出されたダストが形成したものです。この時期は、母天体が見失われていた期間にあたり、その彗星活動(ダストの放出具合)は全くの未知数です。また現在の母天体は、ほとんど小惑星状です。したがって、ダストを放出した当時の彗星活動が全くなかった場合は、今年流星が出現しない可能性もあります。一方で、ある程度の彗星活動があった場合には、まとまった流星出現が観測されることでしょう。
なお母天体は、弱いながらも現在もなお彗星活動が捉えられています(Jewitt 2006、Williamsら 2013)。20世紀初頭も、少なからずダストを放出していた可能性は高いと考えられます。
したがって、2014年のほうおう座流星群の出現数は、当時の彗星活動を類推できる非常に貴重なチャンスとなります。そこで、この群の出現状況を捉えるために当方らは遠征観測を実施することにしました。
軌道進化により、今年の予報放射点の位置はほうおう座から北に移動し、ちょうこくしつ座とくじら座の境界付近となります(図2)。放射点の位置からは、日本でも観測可能です。また流星の速度が遅く地球の重力の影響を受けるため、放射点は、地平高度が高めに観測されることが予想されます。
一方、極大時に観測できる地域は図3で示した夜の地域になります。南米東部や大西洋地域が観測に適しています。ラ・パルマ島は、夕方の薄明終了〜極大後2時間ほどで観測が可能な場所です。
当方らの観測隊は、ラ・パルマ島に遠征し、観測を行う予定です。観測は以下の3夜で実施予定です。
群流星が出現するのは、極大当夜のみを想定しています。
なお、遠征には、1956年に宗谷船上でほうおう座流星群を観測された中村純二さんも同行します。
このほか、北米東岸での観測を予定しているグループがあります。
国内では、極大時間帯が昼間にあたり、大変条件が悪い状況です。一方で、ほうおう座流星群の軌道傾斜角が非常に小さいため、ダストが地球軌道に対して広く分布する可能性があります。このため、極大の半日前にあたる12月1日の夕方〜夜半頃、および極大の半日後にあたる12月2日の夕方〜夜半頃には、わずかながら流星が出現する可能性があります。その数は大変少ないものと考えられますが、捉えられれば貴重な観測になります。
関東の場合、天文薄明は18時頃に終わります。この後、放射点が沈む0時頃までが観測可能な時間帯となります(北海道では17時半から23時頃、九州では18時半から1時頃、沖縄では19時から1半頃です)。
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